登壇者の平均年齢は77歳〜シニアプログラミングネットワーク レポート(2017年4月29日取材)
高齢者のプログラマーが登壇するパネル形式のイベント「シニアプログラミングネットワーク #1」が、2017年4月29日に渋谷で開催された。主催は、Code for Japan、イベントスペース dots.、日本NPOセンター。
シニア向けのゲーム「hinadan」がTVなどのメディアで取り上げられた若宮正子氏、iPhoneアプリをApp Storeで3本リリースしている鈴木富司氏、ボードコンピュータのIchigoJamで制御する檻でイノシシ90頭をしとめた谷川一夫氏という、平均年齢77歳の登壇者の話を聞きに、老若男女が集まった。
目的から入って半年で作ったhinadan
若宮氏は、60才からパソコンを始め、2016年からプログラミングを始めた。シニア向けにスマートフォンを教えていてCode for Japanの小泉勝志郎氏と知り合い、2016年7月に突然「Swiftはじめました」とメッセージを送って小泉氏を驚かせたという。約半年後の2017年3月3日に開催される「電脳雛祭り」に出すというスケジュールで、SkypeとMessengerのリモート教育により、小泉氏からプログラミングをイチから教わった。目的から入ったことと、そのために必要なこと以外は省いて教えたのが成功したポイントだと小泉氏は言う。
「年寄りが若者に勝てるゲーム」というコンセプトで作られ、「スマホを使ったことのないお爺ちゃんお婆ちゃんがやってくれるのがうれしい」という。海外でも紹介され、韓国のNAVERのカンファレンスに招聘されて「I want to be creative」という題で講演した。
若宮氏の言葉では、ユーザーインターフェイスについて「年寄りは指が震えるからドラッグ&ドロップはよくない。また、タップが長押しになってしまうのも注意が必要だ」というのが印象的で、会場からも「なるほど」という声が聞こえた。
応援者を前提にしたアプリの構成
鈴木氏は、「定年後をアプリで楽しむ」と題して、国際的に活動してきた自身の人生とアプリ開発をからめて語った。iPhoneアプリ開発は一度手を出して挫折したものの、2016年から再チャレンジして、独学でSwiftを学んだという。
作品「スマホの勉強シリーズ」もデモした。「初心者はiPhoneの設定は無理」というコンセプトにより、若い応援者に頼むのを前提に、応援者向けの説明を入れているという点の会場の感心を集めた。孫に聞くのは嫌だという声や、教える側も何度も聞かれるのは嫌だという声を聞いたのが元になっているという。また、年配者用アプリの心がけとして、「タップという単語は避ける」「文字は大きく」「できるだけ動画で説明」などの工夫も語られた。
なお、鈴木氏も若宮氏も、英語に抵抗がないことがひとつの成功要因だったという分析も、小泉氏から出た。公式文書やエラーメッセージなどは英語であり、さらにApp Storeとの交渉も英語になるというわけだ。
IchigoJamでイノシシ90頭を捕獲
福井県の谷川氏がIchigoJam制御の檻を作ったのは、イノシシが農地を荒らしたり住居地に出没したりといった問題に対応するためだという。イノシシは警戒心が強いとのことで、警戒心なく檻に入らせて扉を閉めるために、センサーによる方式を選んだ。
たまたまPCN(プログラミンググラブネットワーク)の勝山クラブで小学生が触っていたIchigoJamを知ったという。老眼でのハンダ付けに苦労しながら、センサーやモーターを取り付けてプログラミングをしたとのこと。猟友会による実験を経て、現在65個の檻を設置して、90頭を捕獲した。
谷川氏の講演は、事前の話題性も高く、見知らぬ世界の話に当日の参加者の関心を集めていた。
アプリに町民の声を反映
hinadan以前の若宮氏の活動として、Code for Japanの福島県浪江町の話が、当時復興庁で浪江町にいた現Code for Japanの陣内一樹氏との対談で語られた。福島原発の近くにあり一時は全町避難となった地域で、町民の絆の維持や町からの情報発信、生活の質の向上のためにアプリを開発した。「行政がアプリを作るとたいてい失敗する」という陣内氏の意見から、町民インタビューをもとにペルソナを作成し、ハッカソンで開発してもらった。
アプリのプロトタイプは町民が評価したほか、若宮さんを招いてレビューしてもらい、けっこう厳しい声も出たという。たとえば、「随時配信だとお年寄りはかえって混乱する」という声から毎日夕方に配信する新聞形式で情報を発信した。さらに、写真投稿コーナーでは、コメントで個人的なやりとりが盛んになったり、複数枚の写真を1枚にまとめるときの加工方法が流行したりと、当初想定していなかった使い方もなされたという。
年配の人がアプリを使うには、作るには
最後に、ここまで登壇した全員によるパネルディスカッションが開かれた。年配の方にとってのアプリの使いやすさや、プログラミングの始め方などの話題が語られた。
スマホでの文字入力への苦手意識から、音声入力に興味を示すという話が出たが、一方で方言がきついと認識されないという壁も語られた。また、みな文字入力より写真が好きという声もあった。
プログラミングをこれから始める人に向けては、「まず簡単なものを作って、それが動くと、感動になって次につながる」という声や、「『子供でもできる』というような誘い方はしたくない。やはり難しいので、継続していくことが重要」という声があり、小泉氏は「共通しているのは、作りたいものがあるというモチベーション」とまとめた。