openSUSE.Asia Summit 2017にアジア各地から参加者が集合(2017年10月21日〜22日取材)
コミュニティベースのLinuxディストリビューション「openSUSE」についてアジア地域のコミュニティメンバーが集まる国際カンファレンス「openSUSE.Asia Summit 2017」が、2017年10月に東京都調布市の電気通信大学で開催された。会期は2日間で公用語は英語。
日本だけでなくアジア各地から参加者が集まり、特に前回の「openSUSE.Asia Summit 2016」を開催したインドネシアから多くのコミュニティメンバーが来日して、情報交換や交流を深めていたのが印象的だった。
さらに、オープンソースのオフィススイートLibreOfficeに関する「LibreOffice mini Conference」も併催され、アフリカ地区などからも参加者や発表者が集まった。
openSUSEとSLEはどのように作られるか
基調講演では、openSUSEの議長であるRichard Brown氏が、改めてopenSUSEについて解説した。openSUSEはかつてのSUSE Linuxを源として2005年に発足し、2006年に最初のリリースが公開された。以後、商用LinuxディストリビューションのSUSE Linux Enterprise(SLE)の開発ベースともなっている。
Brown氏はopenSUSEの原則と哲学として「自由」を挙げた。openSUSEのディストリビューションはオープンソースライセンスのソフトの集合体であり、フリーでないライセンスのソフトは追加リポジトリからインストールするようになっている。持続可能なコミュニティも重要で、貢献する人がプロジェクトとの間でCLA(Contributor License Agreement)を交わす必要はない。そして運営については「自由で自発的な活動」を重んじているという。
ここでBrown氏は、「もっと新しいバージョンのソフトを」と「もっと安定した(枯れた)ものを」という、一般的なLinuxディトリビューションへの2つの要求のジレンマを語った。この問題に対してopenSUSEでは、最新のバージョンを取り入れたローリングリリースの「Tumbleweed」と、安定版である「Leap」という2種類のディストリビューションを用意している。
この区分は2015年に始まったものだ。それまでのopenSUSEをSLEの開発ベースとするにはギャップがあったことからopenSUSE Leapが作られた。SLE 12 SP1と共通のコア部分からopenSUSE Leap 42.1が、SLE 12.SP2と共通のコア部分からopenSUSE Leap 42.3が作られている。いずれも、openSUSE Tumbleweedの成果が反映される。
ただし、Tumbleweedのように構成ソフトウェアをどんどんバージョンアップしていくローリングリリースのモデルでは、バージョンアップによって不具合が発生することがしばしばある。
そこでopenSUSEでは、OBS(Open Build Service)という自動ビルドシステムと、openQAという自動テストシステムを使い、バージョンアップのたびにOS起動からアプリケーション実行までのテストを実施していることをBrown氏は説明した。これにより、たとえばGNOME 3.24はアップストリーム(本家)でリリースされてから48時間以内に、KDE Plasma 5.98はリリース当日に、openSUSE Tumbleweedのパッケージを提供したことをBrown氏は実績として語った。
なお余談だが、Brown氏はポケットサイズのPC「GPD Pocket」にopenSUSEをインストールして、プレゼンテーションや会期中の作業に使っていた。休憩時間に話を聞くと「(イベント時点で)まだGPD Pocketの全機能に対応していないので、いじりながら使っている」とのことだった。
opensuse Leapの歴史と次期バージョン
openSUSE LeapのリリースマネージャーであるLudwig Nussel氏は、Leapの歴史と次期バージョンの予定について語った。
openSUSE 13.2までは、SLEと別々に開発されていた。openSUSE 13.1の開発は、SLE 12に反映された。その後、Brown氏の基調講演でも語られたように、Tumbleweedを元に開発された共通のコア部分から、LeapとSLEが開発されるようになった。
最初のLeapは2015年11月にリリースされた42.1で、SLEを元にLeapが作られた。次のLeap 42.2は、2016年11月にリリースで、KDEやカーネル、GNOME、systmd、Qtなどのアップデートがなされたが、KDE Plasma 5.8 LTSの採用は見送られた。Leap 42.3は2017年7月で、ここからTumbleweedをベースにした共通のコアからSLEと並行して開発されるようになった。
次期バージョンは、バージョン番号体系が変わって「Leap 15」となる。2018年4月リリース予定だという。x86_64を第1アーキテクチャとして、aarch64やppc64への移植がなされる。スケジュールとしては、2017年11月~2018月2日にα版リリース、同2月にSLEがRCになる。2〜3月にβ版をリリースし、3月末〜4月にRC版とリリースを予定している。
Nussel氏は、インフラやマーケティング、パッケージング、QA(品質保証)、翻訳などへの参加を呼びかけた。中でも翻訳なら参加しやすいとして「日本からは“very good job”がなされれている」とコメントした。
openSUSEに関する各種セッション
そのほかにもさまざまな個別セッションが開かれた。ここではopenSUSE固有のツールに関するセッションをいくつかレポートする。
SUSE所属でopenSUSE開発者のMax Lin氏(台湾)は、openSUSE Tumbleweedの開発プロセスを紹介した。
TumbleweedはBrown氏の基調講演でも説明されたように、最新パッケージが入るローリングリリースのディストリビューションだ。元になる「Factory」から、OBSによるビルドとopenQAによる自動テストが行なわれ、すべて正常に動作することなどが確認される。
ワークフローとしては、リクエストが送られると自動レビューや人間によるレビューなどを経てFactoryに入り、ビルドとテストを経てTumbleweedに入る。このレビューや
ステージングのプロセスについても、Lin氏は詳しく説明した。
同じくSUSE所属でopenSUSE開発者のBen Chou氏(台湾)は、openQAによる自動テストのしくみについて解説した。氏は「Life is too short for manual testing!(手動でテストするには人生は短かい)」として、継続的な自動テストによって、変更による意図しない影響が怖くなくなると説明した。
SUSEのopenQAのサービスでは通算100万ジョブが実行されたという。openQAジョブの平均的は13分で、「週40時間と考えて164人年の仕事をした」とChou氏は説明した。
openQAではキーボードやマウスなどの人間の操作をシミュレートし、openCVによる画像認識なども備える。各テスト項目は多数のneedle(テストモジュール)となっており、テストを組み合せたジョブを、ワーカーが実行するアーキテクチャーとなっている。そのほかChou氏は、needleを開発するためのAPIや対話モードなどについても解説した。
Kukuh Syafaat氏(インドネシア)は、いくつかのLinuxディストリビューションで使われ始めているパッケージ方式のSnapとAppImage、Flatpakを紹介して、openSUSEで比較した。いずれも目的のソフトウェアとともに依存しているライブラリ等をいっしょに1つのパッケージにまとめているのが特徴で、そのため同じマシンに複数のバージョンを入れることもできる。
Syafaat氏は、SnapについてはUbuntu以外ではインストールが難しく安定していないとコメントし、openSUSEにはFlatpakを薦めた。そしてFlatpakでopenSUSEにインストールしたLibreOfficeやSpotifyクライアント、Kubic Desktopを紹介した。
またAppImageは1つの実行ファイルにまとめられており、管理者権限なしでインストールして使えるのが特徴だという。これについてもSyafaat氏は、AppImage化されたLibreOfficeやKdenliveなどを紹介した。
Andi Sugandi氏(インドネシア)は、OBSを解説するとともに、AppImageの作成にOBSを使う例を紹介した。
OBSでは、openSUSE用だけでなく、ソフトウェアをrpm形式やdeb形式などさまざまなパッケージにビルドできる。Sugandi氏は、OBSのWeb UIやCLI、プロジェクトを記述する各種定義ファイルなどを紹介した。
また、AppImageの作成にOBSを使う利点として、自動的に最新版をビルドできることや、アップデートの差分も作成できることを紹介した。
openSUSE開発者のHillwood Yang氏(中国)は、教室用PCなど多くのマシンへにopenSUSEやSLEをインストールするときに作業を自動化するAutoYastを紹介した。
インストーラーにユーザーが指定する内容をXMLファイルに記述し、PXEブートしたsyslinuxのオプションでXMLファイルを指定して実行する。ただし、このファイルが14000行あるという。そこで、既存のマシンから設定を抽出し、YaSTの設定エディターに読み込んで編集するところをYang氏は紹介した。
Debian開発者のやまねひでき氏(日本)は、OBSやopenQAなどのopenSUSE由来のツールがDebianのパッケージに移植されている状況を紹介した。
OBSは、Collabora社所属のAndrew Lee氏が仕事で使うためにDebianパッケージに移植し、Debian 9(stretch)に入っているという。またSnapperは、Nicolas Dandrimont氏が移植し、やまね氏がメンテナーを引き継いだ。
openQAは、やまね氏が名乗りを上げて、現在(イベント時点で)作業中だという。2017年のDebian開発者会議「DebConf 17」で発表し、Debian開発者に興味を持たれたと氏は語った。
LibreOffice mini Conferenceも併催
openSUSE.Asia Summit 2017の中の併催イベントとして、オープンソースのオフィススイートLibreOfficeに関する「LibreOffice mini Conference」も開催された。
LibreOffice Japanese Teamの小笠原徳彦氏(日本)は、LibreOfficeとその開発コミュニティについて紹介した。LibreOfficeはオープンソースライセンスで開発されているフル機能のオフィス生産性スイートで、マルチプラットフォームと多言語対応が特徴となっている。タイムベースでリリースされており、メジャーリリースは6か月ごと、マイナーリリースは1か月ごととなっている。
小笠原氏はそのほか、LibreOfficeに含まれる各ツールや、ドキュメントフォーマット、Web上で文書を編集するLibreOffice Onlineなども紹介した。
そのうえで開発状況や開発コミュニティを紹介し、企業の傘の下にある「Umbrella Culture」ではなく、「Mixing Bowl(料理で材料を混ぜるボウル) Culture」だと説明。さらにLibreOffice開発コミュニティを支えているThe Document Foundation(TDF)を紹介して、「“TDFがLibreOfficeを開発している”というわけではない。TDFはMixing Bowlを提供している」と語った。
Software Liberty Association TaiwanのFranklin Weng氏(台湾)は「The Interoperability of Documents」と題して、いかに共同作業できる文書を作るかについて語った。
Weng氏は、昔の文書は手書きして馬などを使ってやりとり(interoperate)したという話から始め、それが20世紀にはタイプライターになり、コンピューターとなったが、やりとりにはプリントアウトが使われていたことを取り上げた。つまり、ワープロ上で空白文字でレイアウトしたり文字装飾を指定したりして「美しい紙の文書」を作ることが目的だった。
しかし、現在では電子メールなどのデジタルでやりとりするようになり、やりとりの目的は「文書交換」ではなく「共同作業」となった。そのために、オープンで安定したな文書フォーマットと、正しい考えにもとづく文書の作り方、オープンなフォントの3つが重要になったとWeng氏は論じた。
特に強調されたのが文書の作り方だ。Weng氏は、スタイルで整形した文書と、フォントやセンタリングで整形した文書で同じような見た目になっているものを並べ、「正しいスタイルで整形するべし」と語った。
また文書フォーマットについては、LibreOfficeのODF形式とMicrosof OfficeのOOXML形式を比較し、OOXMLはバージョンによって違いがあることや、記述が冗長になることなどを挙げて、ODFのほうが優位だとWeng氏は主張した。
最後に氏は、「LibreOffice自体を広めるより、共同作業できる文書を広めよう」と話をまとめた。
LT(ライトニングトーク)の枠では、アフリカ地域からLibreOffice mini Conferenceに来日したMohamed Trabelsi氏(チュニジア)とAschalew Arega Ademe氏(エチオピア)が、自国での活動を紹介した。
Trabelsi氏はチュジアのオープンソースソフトウェア(OSS)活動について、中東から北アフリカの地域の中で活発な地域になってきていると紹介した。LibreOfficeの翻訳については、チュニジアで使われている言語について、フランス語は翻訳率100%だが、アラビア語がUIで82.5%、ヘルプで1.4%という数字を示して、「若い学生に期待したい」と語った。
Ademe氏はエチオピアについて、政府がICTの拡大に力を入れていることや、さまざまな言語が使われていることなどを説明した。その中で、2005年からEFOSSNET(Ethiopian Free and Open Source Software Network)という団体が発足して、事実上の公式言語であるアムハラ語についてはLibreOfficeの翻訳率が高いことを紹介した。